貴社はM&A検討の前に経営戦略を策定しているでしょうか?

企業の持続可能性を高めるために

M&A情報収集サイト、マールオンラインに中小M&A研究センター長のインタビュー記事(11月18日)が掲載されていました。

それによると中小企業の課題として、一つは「後継者がいない黒字企業が約60万社ある」こと、二つ目は「収益力の低下や本業で儲ける力の弱まっており、中小企業であっても、成熟から衰退するまでの間に、次の新しい事業を同時並行で育てていく必要がある」ことを挙げています。

こうした経営環境下でM&Aを検討している企業が増えていることは周知の通りですが、そこでの課題として下記コメント(一部抜粋)が書かれています。「M&Aが選択肢である、と経営戦略上、位置付けている中小経営者は非常に少ないです。まずは中小企業の経営者に、既存事業を持続可能なものにするためにどういう戦略を考えているのかを良く考えて頂く必要があります。もちろんM&A以外に打つ手を持っていない企業ならば、M&Aの実践的な教育が必要です。もう1つは、既存の事業の持続可能性が長期的に低いと判断できるときに、新規事業をどのようにして生み出していくのかをきちんと考える必要があります。」。

M&Aの検討に入る前に、企業の持続可能性を実現するための経営戦略を考え抜き、その実現手段として適切ならM&Aを選択肢として検討を進める、ことの重要性が広範囲な中小企業を対象にしている機関から示されています。

前回までのコラムでも述べてきましたが、

1.企業全体の事業ポートフォリオを今後どうしていくか、どの事業を強化・拡大していくか:

「注力する顧客・市場」と「強み(顧客から選ばれる理由)」、「保有する資産」の三つに一貫性があることがキーポイント 「注力する顧客・市場」を検討する際には、(1)水平統合型、(2)垂直統合型、(3)集約(集中)的多角化、(4)集成的多角化、の四つの型がある。

2.事業戦略においてどの市場や製品を強化・拡大していくか、どのような市場ポジションを目指すか、どんな経営資源を強化していくか:

具体化した注力市場で事業展開していくために現時点では不十分な資産は何か、がポイントの一つになります。バリューチェーンと市場顧客・商品サービス・資産(能力)の2軸で評価し漏れなく現状を見える化する。

3.それらの強化・拡大実現に必要な経営資源が不足する場合、どんな方法で(既存資源の育成、人材採用、外部企業との業務提携、M&A、他)資源を獲得するのが適切か:

人材獲得、戦略的提携、ライセンス活用、など複数の選択肢と合わせて検討し、選定することが重要で、M&Aを含めどの選択肢にも長所・短所が必ずある。

これらの3点を貴社はどのようにお考えになったでしょうか。もし検討が不十分な部分があるなら再考をお勧めいたします。

貴社にとってM&Aは資産獲得の最適な手段でしょうか?

貴社の現状と将来像を踏まえた手段の選択を

9月のコラムで選択した事業の競争力強化のためには注力する顧客・市場を具体化し、獲得する資産(能力)を明確にすることが必要なことを述しました。資産獲得の手段はM&A以外にもあります。人材獲得、戦略的提携、ライセンス活用、など複数の選択肢と合わせて検討し、選定することが重要です。M&Aを含めどの選択肢にも長所・短所が必ずあります。例えば、M&Aは相手先と合意後の資産獲得までの時間は短いかもしれませんが、適切な相手を見つける時間や買収後の事業統合に労力がかかる、あるいは不要な資産までついてくるリスクがあります。人材獲得であれば獲得のコストは低くても、限定的な人材獲得では今後の事業展開に不十分な可能性があります。戦略的提携やライセンス活用は低コストかもしれませんが、活用に制約があり、解消のリスクがあります。

このように、現在の貴社の状況や今後の事業展開を考慮した上でどの選択肢にするかの意思決定が必要なのです。

貴社はどんな手段で資産獲得を実現しますか。

貴社はM&Aで何を獲得しますか?

M&A失敗のリスクを低減するために

88月のコラムで事業の方向性、「注力する顧客・市場」に4つのタイプがあり、「注力する顧客・市場」の選択によっては、これまで認識していた「強み(顧客から選ばれる理由)」、「保有する(強みを支える)資産」を合わせて再検討することが必要であることを述べました。

選択した事業の競争力強化のためには注力する顧客・市場を具体化し、獲得する資産(能力)を明確にすることが必要です。具体化した注力市場で事業展開していくために現時点では不十分な資産は何か、がポイントの一つになります。バリューチェーンと市場顧客・商品サービス・資産(能力)の2軸で評価すると漏れなく現状を見える化できます。

この競争力強化のポイントを明確にしておかないと、候補企業との基本合意後に実施する事業デューデリジェンスで何を基軸に相手企業を評価するのかが曖昧になり、適切な評価ができないためにM&A失敗のリスクが高くなります。

貴社はM&Aで何を獲得することをお考えでしょうか。

次の成長機会を探るために

前回(7月)のコラムで「注力する顧客・市場」と「強み(顧客から選ばれる理由)」、「保有する(強みを支える)資産」の三つの一貫性が大切であることに触れました。今回は「注力する顧客・市場」を検討する時に頭の中を整理しやすくする4つの型についてです。

<1>水平統合型

現在の顧客と同じタイプの顧客を対象にして、新しい製品を投入する。

例:FAセンサーメーカーがIoT事業を拡大するためFAコントローラー製造に進出する。

<2>垂直統合型

現在の製品のバリューチェーン上の川上や川下に展開する。

例:電機部品メーカーが事業継続性と付加価値の向上を狙い、自社製品を多く組み込む生産用機械製造に進出する。

6月のコラムで紹介した木材加工会社が木製家具の製造から撤退し、従来から製造している神棚に特化して個人向け、特に女性をターゲットにECを活用して市場を開拓した例はこの型に該当します。

<3>集約(集中)的多角化

現在の製品・技術やマーケティングの一方に関連がある新製品を、新たな市場に投入する。

例:和菓子の製造会社が材料の発酵技術を活用して洋菓子製造に進出する。

<4>集成的多角化

現在の製品と既存の市場の両方に関連がない中で、新製品を新しい市場に投入する。

例:半導体関連メーカーが地元で経営破綻した醸造会社を買収しアルコール飲料製造に進出する。

「注力する顧客・市場」の選択によっては、これまで認識していた「強み(顧客から選ばれる理由)」、「保有する(強みを支える)資産」を合わせて再検討することが必要です。最近の東京商工リサーチのサイトでも成長と資産に関連する記事が掲載されています。(https://www.tsrnet.co.jp/news/analysis/20220728_02.html

皆様は今後の事業成長に向けどのような「注力する顧客・市場」を選択されているでしょか。そしてどのようにM&Aを活用されるでしょうか。

「自社の強み把握」はM&Aの検討に活かせます

前回のコラムで、「自社の強み」を活かせる分野を軸の1つとして事業を見直し、成長につなげた事例を紹介しました。「自社の強み」とはすなわち「顧客から選ばれる理由」です。

経営者の方と事業計画について検討していると「自社の強み」と「自社の良さ」を混同していることがあります。例えば「アットホームな社風」や「ベテラン社員が多い」ことは「自社の良さ」かもしれませんが、必ずしも「顧客から選ばれる理由」になるとは限りません。

「顧客から選ばれる理由」は顧客ニーズや顧客が比較検討する競合メーカーによって変わるので、どんな顧客・市場に注力して事業を展開するか、自社の強みを踏まえて考える必要があります。

「強み」を持続させるためには企業の持つ「資産」に裏打ちされていなければなりません。「資産」に支えられていない「強み」は他社にすぐに真似される可能性が高いからです。ここでいう「資産」とは貸借対照表に書かれている「資産」には限りません。例えば金型の細密加工の技能者などの人的資産、人材育成制度やITを活用した業務システムなどの構造的資産、顧客や協業企業など外部との関係資産も「強み」になり得ます。

最も重要なことは、「注力する顧客・市場」と「強み(顧客から選ばれる理由)」、「保有する資産」の三つに一貫性があることです。これらが明確になっていれば、M&Aのマッチングで売り手・買い手の立場にかかわらず、自社にとって適切な候補を見つける一助になります。もし適切な相手が見つからずにいるなら、再検討してみてはいかがでしょうか。

持続的な成長に向けた事業再構築とM&A

4月の日経ビジネスに木材加工会社が事業を見直すことで売上高を3倍以上に伸ばした事例が紹介されていました。 

この企業(現在の従業員35名程度)は、国産材の木製品を製造し家具店やホームセンターに卸していました。 しかし海外に生産拠点を置く競合他社がすぐに売れ筋商品の模倣品を作り価格競争に巻き込まれ、利益は出なくても会社存続のために生産を続けるという状況になってしまいました。

こうした状況下、事業再構築のために競争の厳しい家具製造から撤退し、従来から生産している神棚の製造に特化しました。 一般的に神棚は大きさなど現在の住宅事情に合わないこと、国産材を活かせることに着目し、自社の木材の目利きと加工技術を強みに現在の住まいにあった神棚を開発、神社からもお墨付きをもらいECを通じて女性を中心に売上を伸ばしたそうです。 

「時代の変化に追いついていない市場」、「自社の強みを活かせる分野」を軸に事業を見直すことで成長につなげることができた事例です。

この事業のリスクの一つが「将来的な木工技術の伝承と国産材料の安定的な調達にある」とすると、これらの経営リソース確保のために他社との資本提携や買収は持続的な成長のための一つの選択肢になるかもしれません。

皆様はどのようにお考えになるでしょうか。

貴社にM&Aは本当に必要でしょうか?(続)

M&A成功のポイントの一つに「経営戦略と整合が取れていること」があります。 (余談ですが、弊社「B. アライン」の「アライン」は「整合を取る」の意味です。)

成長戦略(経営戦略)を立案する際には、

1.企業全体の事業ポートフォリオを今後どうしていくか、どの事業を強化・拡大していくか、

2.事業戦略においてどの市場や製品を強化・拡大していくか、どのような市場ポジションを目指すか、どんな経営資源を強化していくか、

3.それらの強化・拡大実現に必要な経営資源が不足する場合、どんな方法で(既存資源の育成、人材採用、外部企業との業務提携、M&A、他)資源を獲得するのが適切か、

を検討することになります。結果的に戦略の実行施策としてM&Aを選択する場合には、M&Aの狙いやターゲット企業の選定基準、候補企業リスト、等を考えることになります。

では成長戦略を立案する時に、M&Aを実行施策の一選択肢として含める利点は何でしょうか。それは既存の経営資源の制約に囚われずに広い視野で戦略を検討できることです。既存資源を前提にすると新市場や新製品、新事業に踏み出しにくくなりがちです。

経営戦略の検討段階で「何を実現するのか」を忘れず、「M&Aを選択肢として排除せず、M&Aありきにもならない」ことが肝要です。

貴社にM&Aは本当に必要でしょうか?

コロナ禍等の影響で事業再構築について検討・実行している企業が多数あります。また多くの企業が再構築分野として新規事業・多角化を検討・実行しています。

既存事業の強化や事業の多角化を実現するためにM&Aを検討されている経営者もいらっしゃると思います。皆さんは金融機関やその他のステークホルダーに「なぜM&Aを選ぶのか」質問された時にステークホルダーを納得させる回答ができるでしょうか。

M&Aは企業/事業目標を達成する戦略の実行施策の1つであり、他の選択肢と比較して検討するべきです。つまり「M&Aを実現すること」ではなく、「M&A実現後、当初描いた目標を達成すること」が本来の目的のはずです。

M&Aで実現する狙いは何でしょうか。M&A後にその狙いをどう実現するのかイメージは明確でしょうか。

「どんな企業を買うか」を検討する前にもう一度、企業の目標や戦略を見直してはいかがでしょうか。